大学や研究機関の科学コミュニケーションにおいて、映像制作が活用される機会がますます増えてきた。私が大学に転職したのが2009年ごろだが、最近は隔世の感がある。
以前とある研究機関の方から、外部の映像プロダクションとの意思疎通がうまくいかず、組織として考えているような広報映像や学術映像を作ることができないと相談を受けた。
TV番組ぽくなってしまったり、ありがちな味気ない講習動画みたいになる、または研究内容のコアの部分を理解していないことを指摘しても、この方が一般の人には分かりやすいとか、映像制作の文脈ではこちらが正しいと押し切られてしまう感じらしかった。
クライアントと制作側、どちらの方針が結果として正しいかは分からないが、少なくとも研究機関の意志を反映させるには、一定程度の内製化が重要ということになるだろう。とはいえ、全部、内製できるだけの能力や余裕があればそれでよいが、やはり外部の手を借りるほうが効率も質も上がる。
以前聞かれた時はうまく答えられなかったのだが、最近、様々な組織と一緒に制作するにあたって、比較的内製化しやすい部分とそうでない部分があるなと分かってきた。
1.内製化しやすい業務
・プロデューサー(内容・品質チェック)
・ディレクター(連絡・調整)
・静止画、動画素材の調達
・スチルカメラ(一眼レフ。インサートや広報写真用)
・ビデオカメラ(風景やインサートカットのみ)
・公開業務(告知用文章、サムネイル作成、アップロード等)
2.外部に依頼したほうが良い業務
・ディレクター(演出・構成)
・ビデオカメラ(インタビューや演出上必須の映像等)
・一眼レフによる動画撮影
・音声
・編集
・デザイン
・ナレーション制作
・MA・音響効果
・CG、解説図
3.協働する業務
・プロデューサー(コンセプトメイキング)
・テロップ内容
・ドローン撮影(これはケース・バイ・ケース)
この3つの役割分担は流動的に変化するので、自らの組織にとってどういう体制がよいかは相対的である。例えば、デザイナーが内部にいる場合もあるだろう。現時点では、このベストミックスが以前の相談への回答になるかもしれない。
また内製比率を高めたい場合は、2の業務に関して研修を行うことで、内部のスキルを高めていくことができる。ただ、一口にSD研修といっても、組織として目指すゴールや体制を設定できていないと、ぼんやりとした成果しか得られないかもしれない。
2022/8/28